秋刀魚
発行:黒潮文化(台湾)
*中国語繁体字・日本語訳なし
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台湾で刊行される〈日本紹介雑誌〉「秋刀魚」。
台湾視点で特集される「日本」は普段見ている景色にまた違った印象を与えてくれます。
特集テーマも「京都の宿」や「グッドデザイン賞」などスタンダードなものから、「カレー」「コンビニ」「ガチャガチャ」「ラーメン」などのニッチな文化、はては、「下北沢」や「東北」、「香港で見つけた日本」などそこ?という地域特集まで。
言葉はすべて中国語繁体字ですが、紙面の雰囲気は楽しむことができますし、漢字をメインに据えたレイアウトの参考などにも。
もちろん、最近台湾に行けておらず実物が買えない方にも。
誌面サンプルは公式サイトをどうぞ。
(サイト)http://qdymag.com/news/306
(日本語紹介文)
2017年冬、大雪の季節を迎えようとしている福井県を訪れた。新幹線の駅も空港もない北陸の一県はアクセスが不便で、大型の観光レジャー施設にも乏しいが、いちばん幸せな街と言われている。よく考えてみると、この土地は日本の宗教の発祥地にたとえられ、禅宗の一派である曹洞宗の起源となる禅寺「永平寺」を擁し、心身ともに清められる聖地とみなされるので、静寂の中につかの間の幸せを得られるからかもしれない。2回目の永平寺訪問時は、白雪が菩薩像に覆いかぶさっていた。孤独な中にも周囲を緑の樹林に囲まれた姿は、どんなにつらくとも、信念があれば解脱できると告げているかのようだった。
2020年、日本も新型コロナウイルスとの戦いで試練に直面している。五輪開催への期待から、感染対策への疑問まで、清潔好き、規律重視、先進医療といった過去のイメージはまたたく間に吹き飛び、人々が「日本、どうしたの?」と問い始めて1年が過ぎたが、訪日の機会が減って、かえって冷静になれたのか、日本はわれわれが想像するように崩壊中ではなく、いちばん苦しい時期に自分を見直す機会を得たのだ、と思っている。
多くの疑問が湧いて出る中、小誌は108の除夜の鐘を一つひとつの願掛けと見立て、感染防止、政治、スポーツ、映像、生活、日台交流など、今年起きた108の事件について、その分野の専門家に頼んで、改めて日本を見つめなおしてもらった。三密回避のため東京から地方に居を移す動きが新たな地方創生の波を呼んでいること、5G時代になると映像関連の仕事は便利になるが、脱ハンコで企業のルール崩壊が加速すること、日本でブームのIT大臣オードリー.タンが、前例とフレキシブルな政策間でのバランスのとり方を再検討させたことなど、いろいろあるが、もっと大事なのは台湾社会における自由と多様性への意識の高まりで、このあたりは日本もうらやむような特質であり、日台関係は一方的に相手をうらやむ関係から、対等な立場での情報交換の時代へと徐々に変わってきている。
日が当たれば、必ず影ができる。世界がスローダウンした今は、歩を緩めて自分自身と向き合うチャンスだ。日本では、海外旅行できない若者が近所の老舗で茶道を体験したり、和服を着たり、フィギュア界のプリンス羽生結弦が大会欠場でも得意のトリプルアクセルに磨きをかけたり、京セラ美術館の歴史的な大規模リニューアルが京都の伝統文化に新たな生命を吹き込んだりしている。こういった、見過ごされてきた小さなことも、生きていく上で貴重な養分となるのだから。
通算第30号を迎えた小誌は108の事件を振り返って、福を呼び、煩悩を取り除く除夜の鐘の音とみなし、五輪開催が微妙でも、感染収束が先行き不透明でも、将来にどんな困難が待ち受けていようとも、一歩一歩しっかりと前に進んで、雪の中から芽が吹く瞬間を待ち、あでやかな新緑の季節の到来を迎えたい。