『韓国の「街の本屋」の生存探求』
著:ハン・ミファ
訳:渡辺麻土香
解説:石橋毅史
出版:クオン
判型:四六版並製、284頁
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待望の「韓国本屋本」。
最新の独立書店事情のみならず、同じく最新の韓国の出版、流通制度なども紹介した決定版。本屋に興味がある方から、韓国での翻訳、版権ビジネスに興味ある方まで、面白くためになる、を地で行くベストバイの一冊。
(以下、店主が寄稿した本書の応援コメントを転載)
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http://cuon.jp/sub/2368
非常に優れた本屋論でありつつ、本書は最新のビジネスレポートでもある。
韓国での本屋開業ブーム。その担い手へのインタビューを中心にまとめた前半は、本屋を始める、あるいは続ける人々のリアルな姿を映し取っていて、日本でも多様な種類がある「本屋本」の一冊として、韓国の本屋の様子を伝えてくれる。
ただ本書はそこだけにとどまらない。本屋の歴史的背景、図書定価制(日本で言う再販制度)の変遷や、供給率(正味・卸値)。さらには納品(採用品など公的機関へのまとまった販売)の課題まで。業界事情がこれだけわかりやすくまとまったレポートは貴重だ。
韓国からの翻訳小説が近年多く刊行されていて、その流れの中で歴史や社会事情への関心も高まっていると感じている。そしてそうしたテーマの本も多く出ている。では、出版と本屋はどうなっているの? という疑問への最新で最良の解答が本書になるはずだ。
大きな意味で、日本でも、韓国でも本屋を取り巻く事情や課題は似通っているのだろう。ただ、それは当然「全く同じもの」ではない。人と人の交流はもちろんながら、歴史環境におけるその小さな差をしっかり理解することからしか、本当の交流は生まれないのではないかと思える。
さて、しかし楽しいはずの読書に誰しもがそこまでの問題意識を持つ必要もないだろう。本書のもう一つ特徴的な点は、「帆走者」がいることだ。長年出版業界を取材してきた書き手である石橋毅史さんが、なんと本文中にコメントを差し込むという形で参加している(脚注ではなく、本当に本文中にコメントが差し込まれるレイアウトだ)。内容は、業界用語や韓国に対する日本事情の補足といった日本の読者をサポートするものもあれば、「ただの個人的な感想」もある。それは、石橋さんならではの暖かさのあるコメントで、固すぎず邪魔にもならず、ちょっとした専門家と一緒に読書会をしている、と言うような雰囲気で、翻訳書であり、かつ本屋業界本という特殊な内容にもかかわらず、本書が読みやいのもその影響だろう。
とにもかくにも、『韓国の「街の本屋」の生存探求』は近年出版された中でも最良の「本屋本」の一つ。「楽しく」と「真面目に」を両立しながら読み進めてもらえる本だ。
H.A.B 松井祐輔
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